「AI開発をお願いしたい」と相談を受けて、見積もりを出すと驚かれることがあります。「思ったより安い」と言われることも、「他社の見積もりは1000万円超だった」と言われることもある。どちらの反応にも、根拠があります。
理由はシンプルで、「AI開発」と一口に言っても、中身がまったく別物だからです。同じ「AI開発」という言葉でも、中身がAなら30万円で済む、Bなら3000万円かかる——ということが普通に起こります。
まずはここを整理するところから始めます(開発の前に「そもそも何から考えればいいか」で迷っている段階なら、AI顧問とAIコンサルティングの違いもあわせてご覧ください)。
「AI開発」には大きく2つのタイプがある
世の中で「AI開発」と呼ばれているものは、ざっくり2つに分かれます。
タイプ1: AIそのものを作る(モデル開発)
ChatGPTやClaudeのような AIの「頭脳」そのもの を、ゼロから(あるいは半分くらいから)作るタイプです。
具体的には、大量のデータを集めて、コンピュータに「学習」させて、新しいAIを生み出す——という作業です。料理に例えると、スパイスから自分でカレールーを作る ようなイメージです。
- 数千万円〜数億円かかる
- 開発期間は半年〜数年
- データサイエンティストや機械学習エンジニアのチームが必要
- 大手IT企業や研究機関が中心
中小企業がこれをやることは、ほぼありません。やる必要もありません。
タイプ2: 既にあるAIを業務に組み込む(活用型開発)
ChatGPTやClaudeといった 既に世の中で使えるようになっているAIを、御社の業務に合わせて組み込む タイプです。
料理に例えると、市販のカレールーを使って、御社の好みに合わせた家庭の味に仕上げる イメージです。AIの「頭脳」は市販品をそのまま使うので、ゼロから作るより圧倒的に早く、安く済みます。
- 30万円〜数百万円
- 開発期間は1〜3ヶ月
- 中小企業のAI開発は、ほぼ全てこのタイプ
- Mewtonが手がけているのも、こちら
「他社の見積もりが1000万円を超えていた」という話は、よく聞きます。 その多くは、本来タイプ2で済むはずの案件に、タイプ1の見積もりが混ざっているケースです。
タイプ2の中にも、3つのパターンがある
「既にあるAIを組み込む」と言っても、組み込み方には濃淡があります。費用が変わる最大の要因は、ここです。
パターンA: つなぐだけ(API連携)
「API(エーピーアイ)」というのは、簡単に言うと 他社のサービス機能を、自社のシステムから呼び出すための仕組み のことです。コンセントに例えると分かりやすくて、ChatGPTというコンセントに自社のシステムをつないで、AIの力を借りる イメージです。
- ChatGPTやClaudeを呼び出す処理を書く
- 入力フォームを作って、結果を表示する
- 例: 問い合わせメールを自動で要約するシステム
費用感: 30〜80万円。期間: 1ヶ月前後。
世の中で「AI開発しました」と謳っている案件の、かなりの割合がここです。技術的には難しくないので、ここに数百万円を払うのは正直、払いすぎ です。
パターンB: 御社の知識を持たせる(RAG構築・エージェント開発)
ChatGPTは賢いですが、御社の社内ルールや過去資料は知りません。そこを補うのが、このパターンです。
具体的には2種類あります。
RAG構築: 「ラグ」と読みます。簡単に言うと、御社の社内文書をAIが「カンニング」できるようにする仕組み です。質問が来たときに、関連する社内文書を引っ張ってきて、それを参考にAIが回答する。社内ナレッジ検索AIが代表例です(仕組みと向き不向きはRAGとは何か — ChatGPTに自社データを使わせる仕組みで詳しく整理しました)。
エージェント開発: AIが 自分で考えて、複数のステップを実行する 仕組みです。たとえば「この問い合わせメールに返信して」と指示すると、AIが過去のやり取りを調べ、関連資料を確認し、返信案を作る——という一連の流れを自動でこなす。最近、急速に実用的になっている領域です(基本的な仕組みはAIエージェントとは何か — RPAやChatGPTと何が違うのかで整理しています)。
費用感: 50〜150万円。期間: 1〜3ヶ月。
このパターンが、中小企業のオーダーメイドAI開発の 本命 です。汎用ChatGPTでは届かない、「御社専用のAI」が現実的な金額で作れます。
パターンC: AIの性能を御社用に調整する(ファインチューニング)
「ファインチューニング」は、既にあるAIに、御社のデータで追加学習させて、御社専用に微調整する 技術です。料理に例えると、市販のカレールーに御社秘伝のスパイスを足して、独自の味にするイメージです。
- 既存AIでは精度が足りない領域で使う
- 専門用語の多い業界(医療・法律など)
- 大量の社内データがあって、それを活かしたい
費用感: 200〜500万円。期間: 3〜6ヶ月。
中小企業のAI開発で、ここまで必要なケースは多くありません。まずパターンA・Bで試して、それでも精度が足りないときに検討する のが現実的です。
AI開発費用の相場 / VNEXT HOLDINGSやWalker'sの2026年版相場でも、タイプによる価格変動の大きさが指摘されています。
30〜100万円で実際に何ができるのか
具体的には、たとえばこんなものです。
- 社内ナレッジ検索AI: 社内文書を読み込ませ、質問に対して関連情報と回答を返す(RAG構築)
- 資料作成サポートAI: テンプレートと過去資料を元に、下書きを自動生成
- 問い合わせ対応の一次分類: 顧客からの問い合わせを内容別に振り分け、返答案を提示(エージェント)
- 議事録要約: 会議の録音データから要点を抽出し、議事録フォーマットに整形
- 見積もり書ドラフト生成: 過去の見積もりデータを参照して、新規案件の見積もり下書きを作成
いずれも、「人間がやっている定型的な作業を、AIで肩代わりする」タイプのものです。創造性が求められる仕事ではなく、繰り返し発生する処理を楽にする。これが、現時点でAIが最も得意とする領域です。
なぜ「数千万円」になるケースがあるのか
逆に、見積もりが膨らむのはどういうケースか。よくあるパターンを挙げます。
1. タイプ1(モデル開発)が混ざっている
本来タイプ2で済む案件に、「独自AIを作りましょう」とタイプ1の提案が混ざっている。これが最も多いケースです。中小企業の業務改善であれば、独自モデルを作る必要はほぼありません。
2. 既存システムとの統合が複雑
「基幹システムと連携させたい」「ERPの中にAIを組み込みたい」——こうした要件が入ると、AI開発そのものより、システム連携の工数が膨らみます。
AIの結果をどの形式でどのシステムに渡すか。エラー時の処理は。権限管理は。こうした細部を詰めていくと、開発費用は簡単に1000万円を超えます。
3. PoC(概念実証)と本番開発を分けている
大企業では、まずPoCで小さく試し、うまくいったら本番開発に移行する——という進め方が一般的です。PoCに100〜300万円、本番開発にさらに数百万円。合計で1000万円超になることも珍しくありません。これは中小企業には合わない進め方です。
4. 大手SIerに発注している
大手SIerは、間接費(営業・管理・複数の中間担当者)が乗ります。技術的には同じ内容でも、見積もりが2〜3倍になることがあります。
中小企業が30〜100万円で始めるために
予算が限られている中小企業が、現実的にAIを導入するためのコツです。
要件を絞る
「あれもこれも」と欲張ると、費用は際限なく膨らみます。「まずはこの1つの業務だけ」と決め、効果を見てから拡張する。この段階的アプローチが、結果的に成功率を上げます。相談に行く前の最小準備の作り方はAI開発を依頼するときに用意すべき3つの資料で整理し、相談から納品までの実工程はオーダーメイドAI開発の進め方 — 5フェーズの実工程に開示しています。
タイプ2に絞って発注する
見積もり依頼の段階で、「既存AI(ChatGPT/Claude)を活用したタイプ2の開発で」と明示すると、不要に高額な提案を避けられます。
補助金を活用する
2026年度のデジタル化・AI導入補助金(中小企業庁)では、最大450万円、補助率最大4/5の支援が受けられます。生成AIを使ったシステム開発も対象です。自己負担を大幅に減らせる可能性があります。ものづくり補助金や省力化投資補助金との使い分け、補助金ありきで規模を歪めない判断基準は中小企業のAI導入で使える補助金 — 2026年版・3制度の選び方と落とし穴に整理しました。
なお、「そもそも既製のChatGPTで済むのか、オーダーメイドが必要なのか」で迷っている場合は、ChatGPTを導入したのに、なぜ業務に活きないのかで、汎用AIの限界について整理しています。
なぜMewtonは30〜100万円で提供できるのか
最後に、価格の理由を正直にお話しします。安売りしているわけではありません。 構造的に、この価格で適正利益が出るようになっています。
1. ヒアリングから運用まで、外部委託しない
通常のAI開発会社では、要件定義をする人、設計する人、コードを書く人、テストする人、運用する人——と工程ごとに担当が分かれます。各工程の引き継ぎが発生し、コミュニケーションコストが膨らみ、結果として人件費が積み上がります。
Mewtonでは、ヒアリングから設計、開発、運用まで一貫して同じ人間が担当します。外部委託も、下請けへの発注もありません。引き継ぎコストがゼロなので、その分が価格に反映されます。
「作る人と話せる」というメリットだけでなく、コスト構造としても合理的 だということです。
2. AI駆動開発で、開発工数そのものが圧縮されている
ここ1〜2年で、開発のやり方そのものが大きく変わりました。
エンジニアがコードを書く際にAIアシスタント(Claude CodeやCursor)を使うことで、従来の開発工数が1/3〜1/5に圧縮されています。これは現場で実際に起きている変化で、Mewtonでも全面的に取り入れています。
つまり、「同じ機能を作るのに、必要な時間そのものが大きく減った」ということです。これによって、昔なら300万円かかっていた開発が、今は100万円以下で同じ品質で作れる、という現象が起きています。
3. 営業・管理コストが乗らない
専任の営業担当も、複数の中間管理職もいません。Webと紹介経由で来ていただいたお客様に、直接対応しています。
これらが組み合わさって、「中小企業が決断できる価格帯」かつ「事業として成立する利益率」 という、両立が難しいラインを実現しています。
100万円を超える案件もありますが、まずは小さく作って、効果を見てから拡張する という進め方を基本にしています。詳しくはオーダーメイドAI開発のサービスページをご覧ください。継続的な伴走を希望される場合はAI顧問という選択肢もあります。福岡近郊の事業者の方には、ローカル開発会社の評価軸も福岡でAI開発会社を選ぶときに見るべき5つのポイントで整理しています。
よくある質問
30万円で本当にAIが作れるのですか?
はい、用途を絞れば可能です。「なんでもできるAI」ではなく、「この業務専用のAI」になりますが、中小企業の業務改善に必要なのは、ほぼ後者です。
API連携とRAG、どちらが向いているか分かりません
御社の社内文書や過去データを参照する必要があるならRAG、汎用的な処理(要約・分類・生成)で十分ならAPI連携です。判断が難しいケースは、ヒアリング段階で整理します。
開発期間はどのくらいですか?
30〜100万円の案件であれば、通常1〜2ヶ月程度です。要件が明確であれば、もっと早く完成することもあります。
保守・運用費用は別途かかりますか?
はい、運用フェーズに入ると月額費用が発生します。目安としては、月額2〜10万円程度。AIの利用料(ChatGPTやClaudeの従量課金)と保守対応を含みます。
途中で仕様を変えたくなったらどうなりますか?
軽微な変更は柔軟に対応します。大幅な仕様変更の場合は、追加費用を相談させてください。最初に「何を作るか」を明確にしておくことで、後からのブレを防げます。
ファインチューニングや独自モデル開発は対応していますか?
ファインチューニングは案件によって対応します。独自モデル開発(タイプ1)は、Mewtonのスコープ外です。その場合は、対応可能なパートナー会社をご紹介することもできます。