「作れる人間」と話せる安心感 — AI開発を発注する側から見た3つの価値

AI開発を「営業経由で見えない実装者に投げる」構造で発注すると、伝言ゲームで仕様が歪みます。作れる人間と最初から話せる価値を、時間・精度・信頼の3側面から実装者の視点で開示します。

AI開発の相談で最初に会うのは「営業担当者」で、実装する人には最後まで会えない——そんな体験をした経営者は少なくないと思います。私(赤道)が実装者として現場で見ている限り、AI開発の詰まりの多くは、「作る人と話せていない構造」から生まれています。時間・精度・信頼の3つの側面で、この構造がなぜ致命的なのか、実装者の視点で開示します。

AI開発では「営業と話して終わる」体験がまだ多い

システム開発の受発注では、営業/プリセールス/プロジェクトマネージャ/設計者/実装者、と役割が細かく分かれるのが一般的です。中〜大規模の案件なら、それが機能します。しかし、中小企業向けAI開発(30〜100万円帯)では、この分業構造が高くつくというのが現場感覚です。

日経クロステックのIT業界が失敗プロジェクトを繰り返してしまう理由は、システム開発の成功率が長年5割前後で頭打ちになっている構造的問題を扱っています。同記事で紹介されている1,745件のプロジェクト実態調査では、成功52.8%・失敗47.2%。要件定義の甘さと、責任の曖昧化が、いつまでも消えない失敗要因として挙げられています。

これは大規模案件を中心とした調査ですが、要件定義から実装への伝言ゲームで仕様が歪む構造は、規模を問わず起きます。むしろ小規模案件のほうが、営業と実装の分業のオーバーヘッドを吸収する余力がなく、直撃を受けます。

なぜ分業構造が新しいAI領域で特に詰まるのか

AI開発が従来のシステム開発と違うのは、**「作りながらでないと要件が固まらない」**という点です。生成AI・RAG・エージェントは、動かしてみないと精度が読めません。事前の紙上の要件定義で完璧に固めることが、原理的に無理な領域です。

令和7年版 情報通信白書 企業におけるAI利用の現状(総務省)によると、日本企業のAI活用率は2024年度で49.7%に達しています。裾野が広がる一方で、上位に来る導入課題は「具体的な活用方法が分からない」。これは技術情報の不足ではなく、**「自社に何が使えて、何が使えないかの見立てを、実装者と一緒にすり合わせる場が持てていない」**ことの表れだと私は見ています。

営業経由の分業構造では、この擦り合わせが構造的に発生しません。営業→実装への伝言に平均1週間かかると、動かして試すサイクルが月4回になる。実装者と直接なら、1日で仕様変更を反映できる。AI開発における「意思決定の解像度」は、話している相手が誰かで数倍変わります

JUAS『企業IT動向調査2025』でも、システム開発のQCD(品質・コスト・納期)達成率がここ10年で一貫して低下傾向にあり、その主因として「難易度上昇に対する人材追随の困難さ」が挙げられています。人材不足の時代に、伝言ゲームを何段も挟む発注構造は割に合わない——これが今の実務感覚です。

作れる人間と最初に話せる価値 — 時間・精度・信頼の3側面

「営業ではなく実装者と話せる」というのは抽象的に語られがちですが、実務での効き方を3つに分解します。

1. 時間の節約 — 「その場で答えが返ってくる」

相談段階で「これはRAGで解けるか」「汎用ChatGPTで足りるか」「ファインチューニングまで要るか」といった質問への回答が、営業経由だと**「持ち帰って確認します」で1週間**というのが普通です。実装者本人なら、その場で「これは無理」「これは3日で試せる」と返せる。稟議前の判断材料が早く揃うだけで、意思決定の速度は倍以上変わります。

2. 精度の担保 — 「できない」を過小約束できる

営業は基本的に受注のインセンティブで動くため、境界事例では「できます」寄りに丸めがちです。実装者は自分で作るので、できないことを最初に言えます。「そこは今の技術水準では精度が出ないので、別の設計にしましょう」と初回に言える人と、契約後に「実は難しく…」と言う人。事業側にとっての情報価値はまったく違います。

3. 信頼の非対称性の解消 — 「言った/言わない」を最初に消せる

発注側と受注側の情報非対称性は、営業層を挟むほど大きくなります。「営業は事業のことは分かるが技術は分からない」「実装者は技術は分かるが事業は知らない」——この非対称が、実装フェーズで**「言った/言わない」の論点になって噴出**します。実装者と直接会話する構造なら、両方の文脈が同じ人の中で統合される。契約書の何倍もの効果があります。

新規事業のパートナー選定で言われる「同じ船に乗る」感覚も、実装者と直接話せる構造から生まれます。外注型と伴走型の失敗パターンは外注では新規事業は成功しない — なぜパートナーが必要なのかで整理しました。

Mewtonがこの構造にこだわる理由

参考として、Mewtonの立ち位置を開示します。私(赤道)が一次対応・要件整理・設計・実装・運用まで一貫して担当します。営業担当も、下請けへの再委託もありません。理由は3つです。

  • AI領域は変化が早く、営業と実装の間に情報の減衰点を作れない — 半年前の技術常識が覆っていることが日常です
  • 中小企業の30〜100万円帯は分業構造のオーバーヘッドを吸収できない — 営業・管理コストが乗ると価格が2倍近くに膨らみます
  • AI駆動開発の急伸で開発工数が1/3〜1/5に圧縮された — 「作れる人間ひとりが対応できる案件規模」自体が2〜3年前と別物になっています

これは他社を批判する話ではありません。大規模案件では分業構造が必要ですし、営業と実装の分業自体が悪ではありません。ただ、中小企業のAI開発という特定領域では、分業構造のコストと価値のバランスが崩れている、というのが私の見立てです。費用構造の内訳はオーダーメイドAI開発の費用が30〜100万円になる理由で整理しています。

これから — 「作れる人間の絶対数」が価値になる時代

経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」(平成31年4月)では、2030年にIT人材が最大約79万人不足するとの試算が示されています。特にAI・ビッグデータ・IoTを扱う先端IT人材は、需要と供給のギャップが深刻化する見立てです。IPA『DX動向2025』でも、DX推進人材の「量」と「質」の両面での不足は回答企業の6割以上に上ります。

一方、AI駆動開発の急伸で「1人で対応できる開発規模」は数倍に広がりました。この2つを合わせると、**「作れる人間ひとりが、いま個別の会社の実装に直接伴走できる時代」**が短期間だけ開いていると私は考えています。永続する状態ではありません。分業構造でしか回らない規模まで需要が膨らめば、また営業経由が主流に戻ります。

だからこそ、いま「作れる人間と直接話せる関係」を持てるかどうかは、事業側にとっても機会の窓です。書類の網羅性ではなく、実装者ひとりの見立てを信頼できる相手を1社見つけておく。それが、AI活用の変化速度に追いつく現実解だと考えています。

書き手の背景や普段考えていることは会社概要/Aboutにまとめました。相談前に判断材料を揃えたい方は、AI開発を依頼するときに用意すべき3つの資料 — 完璧なRFPより効くものから先にご覧ください。


よくある質問

大手SIerと個人規模の開発会社、どう使い分けるのが正解ですか

規模と要件の性質で分けるのが実務的です。基幹系の大規模刷新や、多数拠点への同時展開はSIerが向きます。個別業務のAI化・小規模プロトタイプ・変化前提のプロジェクトは、実装者と直接組める規模の会社が向きます。「作れる人と話す価値」は、後者ほど大きくなります。

営業がいる会社を選んだ場合、実装者と話す機会は作れませんか

初回打ち合わせに実装担当者の同席を依頼するのは有効です。ただ、継続的な意思決定の窓口が営業だけの場合、仕様変更の判断に毎回2〜3日のラグが乗ります。プロジェクト管理体制として、実装者と直接連絡が取れる線を必ず1本確保できるかを、契約前に確認するのがおすすめです。

「作れる人間」が対応してくれる会社は、事業の規模が小さいから不安です

事業規模と「作れる人間の技量」は別の指標です。事業規模で選ぶなら、「担当者が退職・独立したときの引き継ぎ条件」を契約に明記するのが本質的な対策になります。規模の大小より、担当者への依存度と引き継ぎ設計を可視化しておくほうが効きます。

AI駆動開発で工数が1/3〜1/5になったという話は本当ですか

私自身の実感値としては、コーディングと定型的な設計作業では概ねそのレンジに収まっています。ただし、要件整理・顧客との擦り合わせ・データ品質の担保は削れません。削れるのは「手を動かす部分」であって、「何を作るか決める部分」ではない——ここの見誤りが、AI駆動開発を「速いはずなのに詰まる」原因になります。

発注前に「作れる人か営業か」を見分ける方法はありますか

初回の壁打ちで**「これはできない」「別の設計に振ったほうがいい」と初回に言えるか**を見ると、かなり分かります。営業だけの相手は境界事例で「持ち帰り」を挟みがちで、実装者本人はその場で無理/可能を判断できます。もう一つは「見積内訳の技術的な質問に、具体的な工数根拠を返せるか」。この2点で判別精度がぐっと上がります。